Roentgenium:2009年の春に撮った桜の写真です。桜を見ると、中原中也と小林秀雄が交わした会話を思い出します。(『作家の顔』中原中也の思い出)

鎌倉比企ヶ谷(ひきがやつ)妙本字境内(けいだい)に、海棠(かいどう)の名木があった。・・・・・・

 

 

あれは散るのじゃない、散らしているのだ、一とひら一とひらと散らすのに、屹度(きっと)順序も速度も決めているに違いない、何という注意と努力、私はそんなことをしきりに考えていた。

「もういいよ、帰ろうよ」

秋の夜は、はるかの彼方(かなた)に、小石ばかりの、河原があって、

それに陽は、さらさらと さらさらと射しているのでありました。

陽といっても、まるで硅石(けいせき)か何かのようで、非常な個体の粉末のようで、

さればこそ、さらさらと かすかな音を立ててもいるのでした。

さて小石の上に、今しも一つの蝶がとまり、淡い、それでいてくっきりとした

影を落としているのでした。

やがてその蝶がみえなくなると、いつのまにか、

今迄流れてもいなかった川床に、水は

さらさらと、さらさらと流れているのでありました・・・・・・

 

(「文藝」昭和二十四年八月号)